「万引き家族」 言葉でたどる注目点
フランスのカンヌ映画祭のコンペティション部門で最優秀賞のパルムドールを受賞した、是枝裕和監督の『万引き家族』。日本の作品がパルムドールを受賞するのは21年ぶりの快挙です。作品への関心は日増しに高まり、来月8日からの公開を前に、先行上映も決まりました。
世界が認めたこの映画、どこに注目すればいいのか。監督の言葉などをもとに探ります。(科学文化部記者 岩田宗太郎)
家族の形を問い直したい
『万引き家族』は、東京の狭苦しい古民家で暮らす6人の物語です。
一家があてにするのは、樹木希林さん演じる祖母が受け取る年金。足りない分は、父親(リリー・フランキーさん)が息子(城桧吏さん)とともに万引きをして補っています。
「ふだんなら犯罪者として切り捨ててしまうような、私たちがあまり考えないような人たち」と是枝監督が表現する家族の暮らしぶりが、丁寧に描き出されています。
物語は、父親が、虐待を受けていた少女(佐々木みゆさん)を家に連れて帰るところから始まります。安藤サクラさんが演じる母親は、この少女を実の娘のように迎え入れ、物語の途中、「子どもは親を選べないが、子どもが親を選んだほうが家族の絆が強い」という意味のせりふを言います。
この「絆」という言葉が東日本大震災以降、よく使われてきたことに対し、是枝監督は次のように語っていました。
「絆という言葉は、本来的にいえば血縁を超えた共同体としての絆というところに向かうべきだと思うけれど、『家族は強い』とか『血縁』とか、なんとなく着地としては『家族っていいよね』という物語があふれたように思う。そこに対する違和感が僕の中にずっと残っていた。家族の形をゼロから問い直したい」(カンヌ出発前のインタビューで)
この作品を含め、「家族の形」は是枝作品のテーマの1つとなっています。
是枝監督は、『そして父になる』では6年間育てた息子が病院で取り違えられた他人の子どもだとわかった2組の夫婦を、そして『海街diary』では母親の違う妹と一緒に暮らすことになった姉妹の物語を描きました。
インタビューで是枝監督は、今回の作品について「母はいつ母になるのかが、物語の1つの軸」「自分の子どもではない子どもを育てながら、父親や母親になりたいと思う、そういう人たちの話をやろうと思った」とも語っています。
本当の家族のように
「万引き家族」の出演者のうち、樹木さんとリリーさんは是枝作品の常連です。そこに安藤サクラさんと松岡茉優さん、それに子役の2人が加わり、休憩時間もいつも話をしているような家族となりました。
リリーさんは、是枝監督はそうした俳優どうしのやり取りを常に観察し、台本に反映することもあったと話します。
「どこまで撮っていてどこまで撮ってないのか、どんどん分からなくなってくるんですよね、そういう空気を是枝さんが作ってくれるんで。ことしの1月まで、あばら屋の中で貧しい家族を演じていたんですけど、そこからレッドカーペット。飛距離がすごいというか、映画よりも映画的なことが起きてしまった」(21日のNHKの番組で)
一方、是枝監督には、俳優たちへの感謝の念が。
「今回は、役者のアンサンブルがとてもうまくいった。非常にバランスのいい形でメインの6人が集まり、どの瞬間も皆さんのお芝居がほれぼれするぐらいで、みんなが相手のお芝居をきちんと受けられるという状況で、監督として恵まれた環境で撮れたというのがすごく大きかった」(23日の帰国後会見で)
審査員をとりこに
この作品をパルムドールに選んだことについて、審査員長でハリウッド女優のケイト・ブランシェットさんは「俳優の演技と監督の思いが見事に合致している」などと説明しています。是枝監督はその後、中でも安藤サクラさんの演技に対する評価が高かったと明かしました。
実生活では去年6月に長女を出産した安藤さん。映画では他人の子どもを育てる母親として、監督の言う「母はいつ母になるのか」を体現しています。
「審査員の女優たちはみんな、彼女のお芝居、特に泣くシーンの芝居がとにかくすごくて、『もし私たちがこれから撮る映画の中であの泣き方をしたら、安藤サクラのまねをしたと思ってください』とおっしゃっていました。彼女の存在感が審査員をとりこにしたんだなと、よくわかりました」(23日の帰国後会見で)
そして作品を印象づけているのが、2人の子役の自然な演技です。
是枝監督は子役の城桧吏さんと佐々木みゆさんには台本を渡さず、その場でせりふを伝えたと言います。これまでも続けてきた手法ですが、今回の作品は、子どもたちの成長や葛藤が話の展開に大きく関わってくるだけに、2人の演技も高い評価を受けました。
「台本は渡していないので、簡単な状況だけ説明して、あとはその場その場でせりふを渡していく。桧吏くんは非常に勘のよい子だったので、撮影が進むにつれてストーリーがどうなるのか頭の中でパズルを組み立てていっていましたし、撮影というものをどんどん理解するようになっていた。そういう成長のプロセスを映画の中に残せたというのはとてもよかった」(カンヌ出発前のインタビューで)
僕らが見返される形に
気になる話の展開ですが、予告編の後半部分には『次々と明かされていく、家族の秘密。彼らが盗んだのは、絆でした』というナレーションが。
そして是枝監督は、ストーリーについて次のように語っています。
「見た方が、共感しつつも、でもやっていることは悪いことだとアンビバレントな(相反する)感情に引き裂かれながら、あの家族を見ていく。その後半の展開を、逆に家族から僕らが見返されるという形に転じてみようと」(21日のNHKの番組で)
どうやら途中で事件があり、家族の秘密が明かされていく。そのなかで、家族の形や絆について、見る人の考えや価値観が問われたり揺さぶられたりすることになりそうです。
是枝監督が「積み重ねてきたものが出せた」と自負する映画「万引き家族」は、来月2日と3日に先行上映が行われたあと、8日から全国で公開されます。
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