渡辺信一郎、西村成雄主編《中国の国家体制をどうみるか:伝統と近代》出版
著者 渡辺信一郎編
西村成雄編
出版年月日 2017/03/22
ISBN 9784762965739
判型・ページ数 A5・336ページ
定価 本体7,500円+税
まえがき/渡辺信一郎・西村成雄
総説 中国国家体制の多元的解読をもとめて
一 伝統中国の国家体制/渡辺信一郎
二 「二百年中国」の国家体制変容/西村成雄
第一章 中国における第一次古代帝国の形成――龍山文化期から漢代にいたる聚落形態研究から――/渡辺信一郎
第二章 中国における国家の形成と「公私」イデオロギー/吉田浤一
第三章 「征服」から専制へ――中国史上における北魏国家の形成――/岡田和一郎
第四章 帝国の中世――中華帝国論のはざま――/山崎覚士
第五章 中国の国家体制とグラデーション構造/滝田 豪
第六章 民国政治における正統性問題――政治的委任=代表関係の新経路――/西村成雄
第七章 近現代中国の国家・社会間関係と民意――毛沢東期を中心に――/三品英憲
あとがき執筆者紹介/英文目次
【まえがきより】(抜粋)
本書は、長期的な転換過程にある世界秩序の中で大国化をあゆみだした中国の国家体制、政治秩序に焦点を当て、中国に独自の党国家体制とその淵源をなした伝統中国の国家体制を概括的理論的に俯瞰することによって、二十一世紀の世界秩序のありかたを探ろうとするこころみである。
総説「中国国家体制の多元的解読をもとめて」では、十八世紀までの伝統的国家体制と近二百年の国家体制とにわけて叙述し、中国史上の国家体制の全般的な見取図を描いてみた。
総説一 渡辺信一郎「伝統中国の国家体制」は、十八世紀にいたるまでの中国伝統国家の根幹をなす制度的機制として(1)貢献制、(2)封建制、(3)郡県制をとりだし、それらの形成過程と特質を明らかにし、三者の相互関係の考察をつうじて専制と帝国の両側面をもつ天下型国家の構造を論じた。
総説二 西村成雄「「二百年中国」の国家体制変容」は、十九・二十世紀の二百年中国の国際的配置を地域的中枢からグローバル周辺への下降と、そこからの脱却・中枢的配置への回帰過程としてとらえる。その国家・政治体制の特徴は、ネイション・ステイト的擬集性に示され、とくに革命党による国家体制秩序=党国体制の構築となったことを論じる。
第一章 渡辺信一郎「中国における第一次古代帝国の形成」は、龍山文化期に形成された三ないし四級制の階層構造をもつ諸聚落群が、春秋戦国期の諸戦争をつうじて、軍事的な要請のもとに県制として再編され、郡―県―郷―里からなる漢代郡県制支配の基礎をなすとともに、外部世界への軍事的文化的膨張を可能にし、帝国を形成したことを論じる。
第二章 吉田浤一「中国における国家の形成と『公私』イデオロギー」は、二つの部分から構成されている。第一に、秦・漢以来の中国諸王朝を近現代国家と共通する本質をもつ国家とみなし、その出現の過程を二段階に区分することを試みている。前段階は支配共同体の形成、後段階はその解体による権力の一元化の過程である。第二に、中国独自の公私観念が、この両段階の権力形成において相異なる役割を担った公権力イデオロギーに由来するものであったことを考察している。
第三章 岡田和一郎「『征服』から専制へ」は、前近代中国専制国家の特質を明らかにするために、鮮卑拓跋部が建設した北魏国家の形成過程を具体的に検討する。拓跋部は、分権性を内包した初期政権から、拡大した領域・四方の敵国に対応するために創出された支配共同体を核とする国家を経て、兵力拡充が要請されることにより専制国家へと国家体制を転換させていった。岡田は、この遊牧民による北魏専制国家の形成過程を、中国史上における第二次国家形成と位置づける。
第四章 山崎覚士「帝国の中世――中華帝国論のはざま」は、秦漢帝国や隋唐帝国、明清帝国など中華を統一した帝国が存在する中で、唐帝国が揺らぎ始める後半期から、南宋期までを中華帝国史の中世と位置付けて、その特質を探る。中華帝国に対等・拮抗する国家の出現により、中華帝国はそれらの国々と対等的関係を構築する「盟誓」を用いて平和的・併存的関係を維持した。擬制親族関係・国境の画定・至上権威による承認などを特徴とする盟誓締結にもとづく国際体制(「盟誓体制」)は、中華帝国史上に一時代を画する特徴を有するものであった。
第五章 滝田豪「中国の国家体制とグラデーション構造」は、中国の国家体制をとらえる視角として国家と社会のグラデーション構造を提起し、その歴史的起源を専制国家が成立期より社会の末端まで浸透していたこと、および唐宋以降の社会の流動化や中間団体の形成によってその浸透が弱まったことに見るとともに、現代まで根強く残存するグラデーション構造が民主化と体制の安定の両方を困難にしていると論じる。
第六章 西村成雄「民国政治における正統性問題――政治的委任=代表関係の新経路――」は、孫文の政治発展三段階論にいう「訓政期=党国体制」のもとで、どのように憲政段階が社会的圧力の下で準備されたかを、「国民参政会」という新たな政治的委任=代表関係の制度化過程とその運用過程として復元する。その過程は「抗日戦争」という条件下に展開し、一九四五年以降は「憲法制定権力」の正統性をめぐり国共決裂が明確となるが、憲法規範制度化への政治的潮流は持続していたとする。
第七章 三品英憲「近現代中国の国家・社会間関係と民意――毛沢東期を中心に――」は、毛沢東の指導下にあった時期の中国の統治権力と社会との関係を、戦後内戦期に華北において実施された土地改革とその是正過程を素材として考察する。三品によれば、毛沢東を中心とする中央指導部の農村認識と華北農村の現実との間には巨大なギャップが存在していたが、中央指導部はそのギャップを理解して土地政策を変更することはなく、実施を強行した。このことは、ここでの統治権力が社会構成員の実際の意向とは無関係に存在していたことを示していると論じる。