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【日本文学前导课】芥川龍之介『藪の中』7の7

7.巫女(みこ)の口を借りたる死霊の物語
(鬼魂藉巫女之口的)


  ――盗人(ぬすびと)は妻を手ごめにすると、そこへ腰を下したまま、いろいろ妻を慰め出した。おれは勿論口は()けない。体も杉の根に(しば)られている。が、おれはその(あいだ)に、何度も妻へ目くばせをした。この男の云う事を()に受けるな、何を云っても嘘と思え、――おれはそんな意味を伝えたいと思った。しかし妻は悄然(しょうぜん)と笹の落葉に坐ったなり、じっと膝へ目をやっている。それがどうも盗人の言葉に、聞き入っているように見えるではないか? 

……盗贼凌辱了妻之后,坐在原地,口沫横飞地安慰起妻来。我当然不能开口说话。身子也被绑在树根下。但是,我一直对妻使眼色。别把这男人说的话当真,不管他说什么,都要当成是谎话……我是想传达这个意思。可是妻悄然地坐在竹子落叶上,一直盯著自己的膝盖。那样子,看起来不是很像在倾听盗贼的话吗?

 

おれは(ねたま)しさに身悶(みもだ)えをした。が、盗人はそれからそれへと、巧妙に話を進めている。一度でも肌身を汚したとなれば、夫との仲も折り合うまい。そんな夫に連れ添っているより、自分の妻になる気はないか? 自分はいとしいと思えばこそ、大それた真似も働いたのだ、――盗人はとうとう大胆(だいたん)にも、そう云う話さえ持ち出した。

我因嫉妒而扭动著身体。但是,盗贼依然得寸进尺地巧妙进行著说服。反正你已经失贞一次了,回到丈夫身边恐怕也无法破镜重圆,与其跟随那种丈夫,不如做我的妻子怎样?我就是对你一见钟情,才会做出这种无法无天的事……到最后,盗贼竟胆大包天地搬出这种话。

 

盗人にこう云われると、妻はうっとりと顔を(もた)げた。おれはまだあの時ほど、美しい妻を見た事がない。しかしその美しい妻は、現在縛られたおれを前に、何と盗人に返事をしたか? おれは中有(ちゅうう)に迷っていても、妻の返事を思い出すごとに、嗔恚(しんい)に燃えなかったためしはない。妻は確かにこう云った、――「ではどこへでもつれて行って下さい。」(長き沈黙)

听到盗贼如此说,妻陶醉地抬起脸。至今为止,我从未看过比那时更美丽的妻。可是你们知道那美丽的妻当著被绑住的丈夫之前,对盗贼说了什么吗?即使我现在仍未过七七,徘徊在阴间,但只要一想起妻当时的回答,我胸中仍会燃起一股熊熊怒火。我记得,妻确实是这样说的……“那么,你带我到天涯海角去吧。”(长长的沉默)

 ※註:(ちゅう)()()()(ひとつ)。人の死後、次の生を受けるまでの間の状態、また、その期間。日本では、四十九日とする。中陰(ちゅういん)

嗔恚(しんい)=三毒十悪の一。怒り・憎しみ・恨みなどの憎悪の感情。


 妻の罪はそれだけではない。それだけならばこの(やみ)の中に、いまほどおれも苦しみはしまい。しかし妻は夢のように、盗人に手をとられながら、藪の外へ行こうとすると、たちまち顔色(がんしよく)を失ったなり、杉の根のおれを指さした。「あの人を殺して下さい。わたしはあの人が生きていては、あなたと一しょにはいられません。」――妻は気が狂ったように、何度もこう叫び立てた。「あの人を殺して下さい。」――この言葉は嵐のように、今でも遠い闇の底へ、まっ逆様(さかさま)におれを吹き落そうとする。一度でもこのくらい憎むべき言葉が、人間の口を出た事があろうか? 一度でもこのくらい(のろ)わしい言葉が、人間の耳に触れた事があろうか? 一度でもこのくらい、――(突然(ほとばし)るごとき嘲笑(ちょうしょう))その言葉を聞いた時は、盗人さえ色を失ってしまった。

妻所犯的罪,不只这项。不然,在这个阴间中,我也不会痛苦得生不如死。当妻如痴如幻地被盗贼牵著手,正要走出竹林时,妻突然沉下脸来,指著杉树根下的我,说:“请杀掉那个人。只要那个人还活著,我就不能和你在一起。”……妻像发狂似的,再三这样叫喊著:“请杀掉那个人!”……这句话像一股飓风,现在仍会把我倒栽葱似地吹落至黝暗的无底深渊。你们可曾听过有人说过如此可憎的话吗?你们可曾听过有人说过如此可诅咒的话吗?你们可曾听过……(突然爆发迸裂出似的嘲笑)连盗贼听到这话时,也骇然失色了。

 

「あの人を殺して下さい。」――妻はそう叫びながら、盗人の腕に(すが)っている。盗人はじっと妻を見たまま、殺すとも殺さぬとも返事をしない。――と思うか思わない内に、妻は竹の落葉の上へ、ただ一蹴りに蹴倒(けたお)された、((ふたた)(ほとばし)るごとき嘲笑)盗人は静かに両腕を組むと、おれの姿へ眼をやった。「あの女はどうするつもりだ? 殺すか、それとも助けてやるか? 返事はただ(うなず)けば()い。殺すか?」――おれはこの言葉だけでも、盗人の罪は(ゆる)してやりたい。(再び、長き沈黙)

  “请杀掉那个人!”……妻继续这么叫喊著,再攀抱著盗贼的臂膀。盗贼盯望著妻,不回答杀或不杀……下一秒时,只见妻被一脚踢倒在竹叶上,(再度爆发迸裂出似的嘲笑)盗贼静静地抱著胳膊,望向我说:“这女人要怎样发落?杀掉她?或是留她一命?你只要点头回答,要杀吗?”……这句话,足以让我原谅盗贼所做的一切罪恶。(再次长长的沉默)


 妻はおれがためらう内に、何か一声(ひとこえ)叫ぶが早いか、たちまち藪の奥へ走り出した。盗人も咄嗟(とっさ)飛び(とび)かかったが、これは(そで)さえ(とら)えなかったらしい。おれはただ幻のように、そう云う景色を眺めていた。

妻在我踌躇著回不出话时,叫喊了一声,匆匆跑向竹林深处。盗贼虽然在瞬间就扑了上去,但连袖子都没抓到。我只是呆呆地眺望著眼前所发生的,如梦幻般的情景。

 

 盗人は妻が逃げ去った(のち)太刀(たち)や弓矢を取り上げると、一箇所だけおれの(なわ)を切った。「今度はおれの身の上だ。」――おれは盗人が藪の外へ、姿を隠してしまう時に、こう(つぶや)いたのを覚えている。その跡はどこも静かだった。いや、まだ誰かの泣く声がする。おれは縄を解きながら、じっと耳を澄ませて見た。が、その声も気がついて見れば、おれ自身の泣いている声だったではないか? (三度(みたび)、長き沈黙)

盗贼在妻逃走后,拿走我的大刀和弓箭,并将我身上的绳子割断一处,说:“这回轮到我要逃了。”……我记得盗贼走向竹林外即将不见身影时,这么自言自语著。然后,四周静寂无声。不,好像另有一阵不知是谁在哭泣的声音。我一边解开身上的绳子,一边倾耳静听。结果,仔细听后,才知道原来是我自己的哭声。(第三度长长的沉默)


 おれはやっと杉の根から、疲れ果てた体を起した。おれの前には妻が落した、小刀(さすが)が一つ光っている。おれはそれを手にとると、一突きにおれの胸へ()した。何か(なまぐさ)(かたまり)がおれの口へこみ上げて来る。が、苦しみは少しもない。ただ胸が冷たくなると、一層あたりがしんとしてしまった。ああ、何と云う静かさだろう。この山陰(やまかげ)の藪の空には、小鳥一羽(さえず)りに来ない。ただ杉や竹の(うら)に、寂しい日影が(ただよ)っている。日影が、――それも次第に薄れて来る。――もう杉や竹も見えない。おれはそこに倒れたまま、深い静かさに包まれている。

我费尽气力,撑起疲累的身躯。在我眼前,闪著一把妻遗落的小刀。我拾起小刀,一刀刺戳进我的胸膛。我感到有一团血腥似的东西涌上我的口腔内。可是,我丝毫都不感到痛苦。只是在我感觉到胸膛逐渐僵冷时,四周也更静寂无声了。哦,那是多么的静寂啊!在这山后的竹林上空,甚至听不到任何一只小鸟的鸣啭。只能在杉树和竹子的树梢枝头,瞧见凄寂的一抹阳光在闪烁著。那阳光……也渐渐在淡薄。我已经看不见杉树和竹子了。躺在地上,我逐渐被深邃的静寂所笼罩。

その時誰か忍び足に、おれの側へ来たものがある。おれはそちらを見ようとした。が、おれのまわりには、いつか薄闇(うすやみ)が立ちこめている。

这时,有人蹑手蹑脚地来到我身旁。我抬头想看个究竟。可是,四周已不知何时笼罩上一层薄雾。

 誰か、――その誰かは見えない手に、そっと胸の小刀(さすが)を抜いた。同時におれの口の中には、もう一度血潮が(あふ)れて来る。おれはそれぎり永久に、中有(ちゅうう)の闇へ沈んでしまった。………

谁呢……那个我看不见的人,伸手悄悄拔掉我胸上的小刀。同时,我的口中再次溢出血潮。那以后,我就永远坠落入冥间的黑黯中了。……

 

(大正十年十二月)

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