《南方からの帰還:日本軍兵士の抑留と復員》出版
南方からの帰還
日本軍兵士の抑留と復員
作者:増田 弘
出版社:慶應義塾大学出版会
四六判/上製/272頁
初版年月日:2019/07/30
ISBN:978-4-7664-2609-0
(4-7664-2609-6)
Cコード:C0021
税込価格:2,916円
内容简介
抑留と現地での強制労働――復員をめぐる、旧連合国の思惑と米国との駆け引きとは?当時の一次史料から、未だ謎の多い南方日本軍兵士の抑留・強制労働・復員の全体像を明らかにする一冊。
作者简介
増田 弘(ますだ ひろし)
立正大学名誉教授、前東洋英和女学院大学教授、平和祈念展示資料館名誉館長。
1947年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了。法学博士。
専門分野:日本政治外交史。
主要著作:
『石橋湛山研究―「小日本主義者」の国際認識』(東洋経済新報社、1990年)、
『公職追放―三大政治パージの研究』(東京大学出版会、1996年)、
『自衛隊の誕生―日本の再軍備とアメリカ』(中公新書、2004年)、
『マッカーサー―フィリピン統治から日本占領へ』(中公新書、2009年)、
『ニクソン訪中と冷戦構造の変容―米中接近の衝撃と周辺諸国』 (編著、慶應義塾大学出版会、2006年)、
『大日本帝国の崩壊と引揚・復員』(編著、慶應義塾大学出版会、2012年)、
『周恩来キッシンジャー機密会談録』(共監訳、岩波書店、2004年)、ほか多数。
目录
序章――抑留・復員問題にどう向きあうか
第一章 ビルマ・タイ・マレー・シンガポールでの抑留と復員――イギリス軍管轄下
はじめに――開戦から終戦へ/一 終戦と降伏/二 強制労働と戦犯裁判の開始/
三 英軍側の復員計画 /四 一〇万名の現地残留への方向転換 /五 残留決定をめ
ぐる英米対立/ 六 残留をめぐるマッカーサーと日本政府の英蘭批判/七 残留者の
復員をめぐる英米対立/八 残留者の復員計画の進展/九 残留者の復員開始/
一〇 残留者の復員完了/おわりに
第二章 インドネシアでの抑留と復員――オランダ軍管轄下
はじめに――独立運動に翻弄されたオランダ/一 終戦と武装解除/二 抑留と強制労
働 /三 戦犯裁判の恐怖/四 残留労働をめぐる英・蘭側の画策 /五 復員への道のり/
おわりに――蘭印からの帰還の特徴
第三章 東部ニューギニア・豪北での抑留と復員――オーストラリア軍管轄下
はじめに――平穏な終戦を迎えた第八方面軍/一 ラバウル、ニューギニアでの終戦/
二 降伏調印から収容所へ /三 武装解除と抑留者の苦難 /四 戦犯裁判はじまる /
五 帰還準備と復員完了へ /おわりに――豪北地区からの帰還の特色
第四章 フィリピンでの抑留と復員――アメリカ軍管轄下
はじめに――開戦から終戦へ/一 終戦と米軍の対応/二 降伏への道 /三 武装解
除へ/四 収容所生活と強制労働 /五 急がれた戦犯裁判 /六 帰還準備から復員完
了へ /おわりに――フィリピンからの帰還の特異性
終章――双方向からとらえた抑留・復員・帰還
书评
◆連合国軍の方針 資料から解明
[評]成田龍一(日本女子大教授)
アジア・太平洋戦争の敗戦時、約六百五十万人の日本人が海外にいた。民間人の「引揚(ひきあげ)」はようやくあきらかになりつつあるが、半数以上を占める旧日本軍人約三百五十万人の「復員」は、まだ全容がみえてこない。他方、シベリアを中心とする「抑留」こそ論じられるものの、「南方」での様相はまだまだ不透明である。本書はここに切り込み、東南アジアにおける旧日本軍の将兵たちの「抑留」と「復員」を主題とした。
連合国軍は終戦に伴い彼らを抑留したが、事態が複雑となるのは、地域によって管轄が異なるからである。イギリスがビルマ・タイ・マレー・シンガポール、オランダはインドネシア、オーストラリアは東部ニューギニアなどを管轄する。そしてもっとも多くの戦死者を出したフィリピンは、アメリカ軍の管轄下にあった。地域によって差異があり、連合国軍内にも、英・蘭軍と米軍のあいだには抑留方針をめぐる対抗がみられた。
著者は、イギリス国立公文書館やアメリカのマッカーサー記念図書館をはじめ、各国の公文書館で資料をたんねんに収集、日本でも防衛研究所図書館や外務省外交史料館所蔵の文書を渉猟(しょうりょう)し、各地域における各国政府と各国軍による旧日本軍人抑留と復員の方針・計画を解明する。戦闘の停止から降伏、武装解除、収容所入り、戦犯裁判、労働使役の過程が明かされ、帰還が容易に進まない状況が記される。この間、復員船の配船や燃料費の負担をめぐるやりとりがあり、日本政府が要望を出すなど国際的な駆け引きがみられ、帰還の方針が二転三転したのである。そのため英軍管轄下では一九四六年九月まで復員が進められたが、その後残留を強いられた将兵は四八年一月に復員が完了するまで労働に従事させられた。
本書は、広く国際的な視野から、東南アジアにおける連合国軍それぞれの復員方針とその実施の過程をあきらかにし、抑留し労働をさせた政策とその背景を詳細に解明した。「南方からの復員」の全体像に接近する大きな地歩を築いたといいうる