中国のゲームが海外市場で成功しているワケは?
スマホゲーム「モバイル・レジェンド:BangBang(MLBB)」は、東南アジア競技大会で公開競技となったエレクトロニック・スポーツ(eスポーツ)の正式種目となっただけでなく、世界でダウンロード数が累計10億回を超え、インドネシアやフィリピンなどの東南アジア諸国の人気ゲームランキングに長期にわたり名を連ね、東南アジアのゲーム市場で現在爆発的人気となっている。
「MLBB」のように、海外市場で大ヒットしている中国のゲームは少なくない。「王者栄耀」の海外版「伝説対決―Arena Of Valor―(AOV)」から、ゲーム会社・米哈游(miHoYo)のオンラインゲーム「原神」、莉莉絲(Lilith Games)のカジュアルゲーム「剣与遠征(AFK Arena)」など、中国のゲームが海外に進出し、その勢力を拡大させている。
「MLBB」は、上海沐瞳科技有限公司が海外市場に打ち出した2つ目のゲームとなる。同社は発足当初、中国のゲーム市場は既に飽和状態であることを考えて、新しい道を切り開き、海外に進出した。レッドオーシャンである中国国内のゲーム市場は避けることはできたものの、同社の袁菁・共同創業者兼最高経営責任者(CEO)は取材に対して、「海外市場を切り開くほうが、実はもっと難しかった」と語る。
東南アジア各地のインターネットインフラは整備されておらず、モバイル通信料金が高い。また、一部の発展途上国のスマホは古いバージョンで、使えるパケット量も少ない。国によって異なる言語、サーバー、マッチングさせるチームメイト、対戦相手のタイプなどはいずれも解決すべき難題となった。
袁氏は、「『MLBB』が海外でヒットした理由は、それぞれの国に合わせて、トータルオーダーメイドを行ったから。良いゲームというのは、アイデアがおもしろいだけではない。ユーザーが『ウィークポイント』と感じている部分を、積極的に解決すれば、プレイヤーは自然とそのゲームに強く依存するようになる」との見方を示す。
「MLBB」が始めから海外に進出してヒットしたのに対して、「AOV」と「原神」は中国と海外市場の両方で花を咲かせた。米モバイルアプリ調査会社・Sensor Towerの統計によると、2020年12月、騰訊(テンセント)の「王者栄耀」の世界のApp StoreとGoogle Playにおける売上は2億5800万ドル(1ドルは約105.2円)、2019年12月と比べて58%増となり、世界のスマホゲームランキングでトップに立っている。
2015年にリリースされた「王者栄耀」の海外版「AOV」は2016年10月に海外でリリースされた。「AOV」の運営責任者・楊璐氏は、「現時点で、『AOV』の世界での布石打ちは完了しており、149ヶ国・地域で登録され、2億人以上のプレイヤーが登録している。海外に進出した騰訊の製品としては、デイリーアクティブユーザー数が初めて1500万人を超えたゲームだ」と説明する。
「王者栄耀」は中国市場でも輝かしい記録を打ち立てたにもかかわらず、楊氏は、「海外進出の過程では、兜の緒を締めなおす気持ちで、足を地につけて、海外市場を理解し、そこにとけこむようにした」と振り返る。
「『AOV』が成功したのは、ジャンルのチョイスが正しく、そのジャンルの面では蓄積があったから。クライアントゲームの時代から、MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)は世界で人気となっていた。それが、『AOV』が海外市場で成功するための、ユーザーの基礎となっていた」と楊氏。
その他、中国と海外市場では、ゲームをめぐる習慣や美的センスが異なることに関して、楊氏は、「『王者栄耀』と『AOV』では、リズム、美的スタイル、表現など数多くの調整や変更が実施されている。その過程で、さまざま国や地域に足を運んで、調査、研究を行い、海外のユーザーの習慣や好みを理解した」と説明する。
Sensor Towerの統計によると、中国のゲーム「原神」も世界の人気スマホゲームランキングの上位に入っている。「原神」は世界の150ヶ国・地域以上で同時リリースされ、中国語、英語、日本語、韓国語、フランス語、ドイツ語、ロシア語など13ヶ国語版がある。また、「App Store Best of 2020 ベストiPhoneゲーム」ユーザー投票部門優秀賞や「Google Play ベスト オブ 2020」ユーザー投票部門優秀賞、東京ゲームショウ特別企画「メディアアワード2020」ユーザー投票部門1位など、数々の賞を受賞している。
「原神」の海外市場における成功の道を振り返り、米哈游の劉偉総裁は、「文化的内容に富んだシーン、ストーリー、音楽などが、このゲームに文化的深みを与え、美的価値も高めた。ゲームデザインの過程で、当社はその文化的属性を意識的に増強した。例えば、中国国内の5A級(最高ランク)景勝地・張家界や桂林、黄竜などにインスピレーションを得て、江蘇省蘇州市にある歴史的な庭園、中国の伝統的な建築流派・徽派建築などの特徴と組み合わせ、ゲームのシーンをデザインした。さらに、ストーリーには、春節(旧正月)や元宵節(旧暦1月15日)などの中国伝統文化の要素を盛り込んだ」と説明する。
袁氏は、「ゲームは一種の美術作品であり、深く、そして長期にわたり、文化を発信する能力を備えている。これまでは、西洋のゲームが中国に進出し、中国の多くのプレイヤーが西洋の神話やファンタジーといった文化に興味を持ち、それを理解するようになった。一方、今後は、中国のゲームが同じように文化発信という使命を担い、さらに多くの海外のプレイヤーが中国の優秀な文化を深く理解するようになるだろう」との見方を示す。
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