京都大學杉山正明(1952-2022)先生逝世,致哀!
杉山 正明(すぎやま まさあき、1952年3月1日 - 2022年)は、静岡県生まれの日本の歴史学者。京都大学名誉教授。主要研究テーマはモンゴル時代史、中央ユーラシア史。日本におけるモンゴル史研究の第一人者である。
来歴・人物
1952年、静岡県沼津市に生まれる。静岡県立沼津東高等学校を経て1974年京都大学文学部卒業。1979年同大学院文学研究科博士課程単位取得退学、京都大学人文科学研究所助手となる。1988年京都女子大学文学部専任講師、1989年助教授を経て、1992年から京都大学文学部助教授、1995年から教授、のちに京都大学大学院文学研究科教授。2017年定年退任、名誉教授。
研究・活動
モンゴル帝国史、特に東アジアを支配した初期のモンゴル帝国や元の研究にあたり、それまで日本のモンゴル史研究が中国史料の『元史』等に偏重していたと批判し、『集史』等のペルシア語史料やパスパ文字碑文等のモンゴル語史料をも積極的に利用して多角的に読み直すことによりモンゴル帝国史に新たな視点を見出している。
1990年前後から、研究論文だけでなく、一般の読者向けに自身や日本の研究者の最新の研究成果を活用してモンゴル帝国史を説く概説書を数多く著すほか、複数の中国通史の概説書においてモンゴル帝国・元のパートを執筆しており、日本におけるモンゴル帝国史研究の第一人者と目されている。また、2001年に放送された、NHKの大河ドラマである『北条時宗』においては、時代考証を担当している。
特に啓蒙書などの叙述において、モンゴル帝国主体からの視点によって中国史料やヨーロッパにおける叙述の視点の偏り、それを「鵜呑み」にしてきた旧来の欧米や日本の歴史学界におけるモンゴルへの視座を否定的にとらえ、モンゴル帝国の残虐性を糾弾する先人を批判し、モンゴル帝国の持っていた先進性を評価する。また、モンゴル帝国の時代における世界の各地域を、グローバルなモンゴル・中央ユーラシア世界と内向きな中国・日本・ヨーロッパ等という対立的な見方においてとらえ、本来の研究領域である東アジア世界の叙述において、南宋・明などのモンゴル帝国に敵対した中国王朝の為政者や、耶律楚材などのモンゴル帝国に仕えた中国系官僚の役割をモンゴルのグローバルな視点から読み直す叙述を盛んに行っている。
また、文天祥に対しては概ね「みずからの名声を異様なほどに意識して、あくまで斬死を熱望し、見事に後世の称賛を受けることに成功した」と評価している。
主な受賞・受章歴
1995年 『クビライの挑戦 モンゴル海上帝国への道』でサントリー学芸賞[思想・歴史部門]を受賞。
2003年 それまでの業績に対し、司馬遼太郎記念財団が第6回司馬遼太郎賞を贈られた。
2006年(平成18年)4月29日 紫綬褒章を受章。
2007年6月 『モンゴル帝国と大元ウルス』で第97回日本学士院賞を受賞。
著書
単著
『大モンゴルの世界 陸と海の巨大帝国』(角川書店[角川選書]、1992年6月)
改訂版『大モンゴルの世界 陸と海の巨大帝国』(角川ソフィア文庫、2014年12月)、ISBN 4-04-409218-4
『クビライの挑戦 モンゴル海上帝国への道』(朝日新聞社[朝日選書]、1995年4月)
『クビライの挑戦 モンゴルによる世界史の大転回』(講談社学術文庫、2010年8月)、ISBN 4-06-292009-3
『モンゴル帝国の興亡(上)―軍事拡大の時代』(講談社現代新書、1996年5月) ISBN 4-06-149306-X
『モンゴル帝国の興亡(下)―世界経営の時代』(講談社現代新書、1996年6月) ISBN 4-06-149307-8
『耶律楚材とその時代』(白帝社[中国歴史人物選書8]、1996年7月) ISBN 4-89174-235-6
『遊牧民から見た世界史―民族も国境もこえて』(日本経済新聞社、1997年10月)
『遊牧民から見た世界史』(日経ビジネス人文庫、2003年1月、増補版2011年7月)、ISBN 4-532-19599-3
『世界史を変貌させたモンゴル―時代史のデッサン』(角川書店[角川叢書]、2000年12月) ISBN 4-04-702104-0
『逆説のユーラシア史―モンゴルからのまなざし』(日本経済新聞社、2002年9月)
改題『モンゴルが世界史を覆す』(日経ビジネス人文庫、2006年3月) ISBN 4-532-19325-7
『モンゴル帝国と大元ウルス』(京都大学学術出版会、2004年2月) ISBN 4-87698-522-7
『疾駆する草原の征服者―遼 西夏 金 元』(講談社「中国の歴史08」、2005年10月)、編集委員
『疾駆する草原の征服者』(講談社学術文庫「中国の歴史8」、2021年2月)、ISBN 4-06-522310-5
『モンゴル帝国と長いその後』(講談社「興亡の世界史09」、2008年2月)、編集委員
『モンゴル帝国と長いその後』(講談社学術文庫「興亡の世界史」、2016年4月)、ISBN 4-06-292352-1
『ユーラシアの東西』(日本経済新聞出版社、2010年12月)、主に講演録
『京都御所西 一松町物語』(日本経済新聞出版社、2011年11月)、地元京都の随想
『海の国の記憶五島列島 時空をこえた旅へ』(歴史屋のたわごと1:平凡社、2015年1月)
『露伴の『運命』とその彼方 ユーラシアの視点から』(歴史屋のたわごと2:平凡社、2015年1月)
共著
『大モンゴルの時代 世界の歴史9』(北川誠一共著、中央公論社、1997年8月) ISBN 412-4034091
中央公論新社・中公文庫〈世界の歴史9〉(2008年8月) ISBN 412-2050448
『モンゴル帝国 NHKスペシャル 文明の道5』(日本放送出版協会、2004年2月)
『人類はどこへ行くのか 興亡の世界史20』[注 1](講談社、2009年/講談社学術文庫、2019年) ISBN 406-5144108
歴史学者10名での共著、論考・シンポジウム
訳書・監修
『モンゴル帝国の歴史』 デイヴィド・モーガン/David Morgan
大島淳子共訳(角川書店[角川選書234]、1993年2月) ISBN 4047032344
『チンギスカンとモンゴル帝国』 ジャン=ポール・ルー/Jean-Paul Rour
監修(創元社<「知の再発見」双書111>、2003年10月) ISBN 4422211714
『流沙の記憶をさぐる―シルクロードと中国古代文明』 林梅村
監修(日本放送出版協会、2005年3月) ISBN 4140810297
編著
『大地の肖像─絵図・地図が語る世界』(藤井譲治・金田章裕共編、京都大学学術出版会、2007年3月) ISBN 9784876987122
『中国歴史研究入門』(礪波護・岸本美緒共編、名古屋大学出版会、2006年1月) ISBN 9784815805272
(信源:寶音德力根先生)