空飛ぶタクシーとドローンが切り開く次世代の移動と物流、“航路”の概念を覆す
前回、Weixin/WeChat公式アカウント(微信公衆号)で中国を発着地とする「最長航路」について取り上げた。その対極にある「最短航路」に焦点を当ててみると、大連‐煙台、香港‐広州、上海‐杭州などが候補として挙がるが、実は「航路」という概念を覆す交通手段も登場している。上海から蘇州まで“航空移動”の所要時間は約25分。そんなeVTOL技術を活用した「空飛ぶタクシー」について紹介しよう。
中国の“最短航路”は?
日本発着の国際航空路線で最短のものを挙げると福岡から釜山の約200キロが挙げられる。時間は1時間程度。ビートル(高速船)での移動時間は3時間40分だから、それよりタイパは優れていると言えそうだ。一方、日本国内線では、沖縄県の本島東に位置する北大東島から南大東島に至るわずか約13kmの路線がある。こちらは地域住民の生活を支え、離島間の交通手段として不可欠な役割を果たしている。
では、中国国内の最短航路はどの路線になるだろうか。昨今、ネットで注目を浴びているのが上海と杭州を結ぶ航路で、距離はわずか175キロに過ぎない。所要時間は1時間30分となっており、エコノミークラスなら170元で移動が可能である(※報道によると3月30日で運航終了)。あり得ないことだが、日本人にとっては東京と横浜間、大阪と神戸間に航路が開設されている感覚だろうか。
「空中タクシー」に脚光
昨今になってより短い距離での“航空移動”が実用化されようとしていることが話題になっている。といっても、航空会社が運航する定期便のことではない。"eVTOL(電動垂直離着陸機)"という垂直離着陸が可能な機体を活用した「空中タクシー」のサービスのことだ。上海峰飛航空科技や上海時的科技をはじめとする複数の企業が、eVTOL機の開発に取り組んでいる。
eVTOLは小型で静かに飛行できるため、都市内や近郊都市間との短距離移動に適している。電動推進(モーター、バッテリー、燃料電池、電子制御装置など)の進歩により、従来の航空移動より環境負荷が低く、コスト削減が期待される。2月27日には、世界初の公開実証飛行が広東省のグレーターベイエリアで行われ、深センの蛇口から珠海の九州港まで20分の飛行を敢行した。時を経ずして上海浦東の新国際博覧センターから蘇州の東方之門(工業園区にある超高層ビル)までの約100キロを約25分で飛行したことが話題になった。実用化した場合の料金は約300元が想定されているという。
eVTOL革命による未来型交通
eVTOLは(1)環境に優しい、(2)時間とコストを節約、(3)便利で安全、というメリットがある。乗客の移動時間を短縮し、フライトコストを削減し、車両の排気ガスの減少、交通渋滞の緩和等の効果が期待される。都市間移動のみならず、緊急物資輸送や消防救助など、多岐にわたる分野で技術を応用していくことが想定される。
もちろん、eVTOLによって旅行のスタイルが大きく変わることは間違いない。中国の交通システムに革命をもたらすこのeVTOL。上海を中心とする中国の企業が次世代技術の開発でリードしており、市場規模は2035年までに5,000億元(約10兆円)に達すると予測される。
深センでドローン宅配便
これまで見てきたeVTOLはいわば、人を運ぶ交通、すなわち“人流”のインフラ革命を促進するものだが、“物流”の分野ではドローン活用によるイノベーションが推進されている。低空域の飛行活動によって関連分野に融合的な発展をもたらす総合的経済業態のことを「低空経済」と呼ぶ。これが物流市場の新たな可能性を切り開くエンジンになろうとしているのだ。物流大手の順豊(SFエクスプレス)傘下の豊翼科技は、3月23日から深センで“ドローン便”による即時配達サービスを開始している。深セン市内では2時間以内、隣接する珠海、中山、東莞の各市へは4時間以内で配達が可能だとアピールしている。
運送が可能なのは生鮮食品、文書、衣類など5キログラム以内の物品で、サービス提供時間は月曜から土曜の9時から18時まで。都市内配送は12元、都市間配送は40元という体験価格が設定されている。中継地点を経由して荷物が運ばれた陸路輸送と比較すると、リードタイムは50%以上向上するという。低空経済のさらなる発展が、物流業界に新風を吹き込み、新たなビジネスを創出していくことが期待される。(編集:耕雲)
参考
NAVI