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QRコード誕生30周年、日本の鉄道改札に“第3の波”、上海メトロの「紙きっぷ」の現状は?
QRコード誕生30周年を迎えた今年、日本の鉄道業界が磁気乗車券の全廃に向けて動き始めたことが話題になっている。JR東日本と関東私鉄7社は2026年度末までにQRコード乗車券へ完全移行する計画を発表した。一方、先進的なデジタル化を実現した上海メトロでは紙製「QR片道乗車券」の試験導入が開始されて1年が経過したが、拡大の兆しはまだ見られていない。私鉄大手が磁気乗車券廃止へ日本の鉄道で「第3の波」が到来したことが話題になっている。手動改札から自動改札という変革が第1の波とすれば、ICカード乗車券(Suica、PASMO)の普及は第2波だったといえよう。そして5月29日、JR東日本と関東私鉄7社(京成電鉄、京急電鉄、新京成電鉄、西武鉄道、東京モノレール、東武鉄道、北総鉄道)が、2026年度末までに磁気式乗車券を廃止すると発表した。(出所:JR東日本)磁気乗車券に代わって導入されるのはQRコード乗車券で、券売機や改札機を対応させていく。ただし、東急電鉄や東京地下鉄(東京メトロ)等の大手私鉄は現在のところ参加を表明していないとされ、「第1の波」のときと同じく関西エリアの方が「QR対応」では先行している感がある。関西を中心に岡山、静岡を含めた61の鉄道・バス事業者で構成されるスルッとKANSAI協議会のホームページによると、関西私鉄の共通QR乗車券となる「スルッとクルット」が6月17日から開始される見通しだ。(出所:スルッとQRtto)コストと環境負荷の削減現在の自動改札機は乗車券を送るベルト機構など機械的な可動部が多数存在し、その部品調達コストやメンテナンス費用がかさむ難点がある。これに対して、QR乗車券なら読み取り用のスキャナーを設置するだけで済み、物理的にストレスがかかるのは扉部分のみである。また、使用済みの磁気乗車券は産業廃棄物扱いとなるが、QR乗車券は一般ごみとして廃棄できる。そのため、QR乗車券への移行は、発行コストやメンテナンスコストの削減はもとより、環境負荷を下げるうえでもメリットが大きいとされている。上海メトロの「紙きっぷ」とは?今年は「QRコード」が開発されて30周年となる。自動車部品大手デンソーがその特許を出願したのは1994年3月14日だったという。その後、QRコードを社会インフラの構築にいち早く活用することに成功したのは中国である。公共交通機関での乗降車はほとんどがスマートフォンのアプリやミニプログラムによるもので、交通ICカードを使う利用者も減少している。こうした中で意外と知られていないのが、紙製のQR乗車券の存在だ。上海メトロ(地下鉄)は2023年6月1日から、1、2、8号線の人民広場駅で紙製のQR片道乗車券の試験運用を開始した。この乗車券には乗車料金、発行日時、発行駅名とともにQRコードが記載されている。改札を通る際はスキャナー部にこのQRコードをかざせばよい。使用後の乗車券は駅(改札口)で回収されることがないため、利用者が各自一般ごみとして処分する。上海メトロの紙製QR乗車券いまだ知る人ぞ知る存在当初、この紙製QR片道乗車券は、試験運用の結果をもとにサービスの改良・最適化を進め、他都市での導入の参考に供する予定だと伝えられていた。しかし、導入から1年が経過したいま、上海メトロ内でも販売機の増設はされておらず、駅員でさえ人民広場駅以外の設置駅がどこなのか十分に把握していないと見られる。そもそもQRコード決済をスマートフォンで行える環境があるなら、最初から交通アプリやミニプログラムを使えば用が済む。乗車券収集マニアのニーズに応えようという意図なら、せめてQRコードの形状を加工したり、カラー色にしたり、デザイン面でも粋な計らいを期待したいところだ。下車後に回収されてしまう磁気乗車券のほうがデザインに工夫を凝らしていることが多いだけに、その点が残念だ。(編集:耕雲)上海メトロ・人民広場駅に設置されている紙製QR乗車券の販売機。専用販売機には現金の投入口は見当たらない